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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)3141号 判決 1980年12月02日

控訴人

家田光雄

右訴訟代理人

齋藤龍太郎

被控訴人

伊藤英二

右訴訟代理人

花岡隆治

外五名

主文

本件控訴及び控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所は控訴人の本訴請求(当審において追加した予備的請求を含む。)は失当なものと考えるが、その理由は次に訂正、附加するほかは原判決理由欄(但し原判決五枚目―記録一三丁―裏六行目から同八枚目―記録一六丁―表二行目の「べきであり、」まで。)記載のとおりであるから、それを引用する。

1、2、3<省略>

4  当審における控訴人の新しい主張について。

(1)  被控訴人は、控訴人の右主張は時機に遅れて提出され、訴訟の完結を遅延させるものである、と主張するが、右主張の提出により本件訴訟の完結が遅延するとはいいがたいから、被控訴人の主張は採用しない。

(2)  しかし借地法六条における異議の正当事由は異議を述べた時点において存在することを要するが、前記認定の控訴人が異議を述べた時点(昭和五二年六月一三日)において控訴人がその主張のように相当額の立退料支払の申出をなしたことを認めるに足りる証拠はないのみならず、仮にそのような申出が当時なされたとしても、前記原判決引用部分に認定された控訴人、被控訴人双方における本件土地の必要性を対比して考えると、控訴人が当審で申出の立退料の支払をもつてしてもこれを正当事由の不十分性を補強し、十分の正当事由あるに至らしめるものとはいい難い。

従つて当審における控訴人の新しい主張も採用できない。

二そうすると原判決は正当であり、本件控訴は理由がなく、また控訴人が当審で追加した予備的請求も失当であるから、これらを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条本文、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(吉岡進 手代木進 上杉晴一郎)

<参考・原判決理由>

一 請求原因1(土地賃貸借契約)、2(被告の建物所有、土地占有)の各事実は当事者間に争いがない。

二 使用継続に関する異議の遅滞の有無

請求原因3のうち、被告が昭和五二年二月二五日ころ原告より内容証明郵便(甲第三号証)を受領したこと、同年六月一三日被告方に到達した内容証明郵便(甲第四号証の一)により原告は被告の本件土地使用継続に関し、異議を述べたことはいずれも当事者間に争いはない。原告の被告に対する口頭による異議については認めるに足る証拠はない。

しかし、成立に争いのない右甲第三号証には「本件再契約の意志はなく」との記載があり、原告が本件賃貸借契約の更新について予め消極的な考えを示したことは明きらかであり、これと右の争いない事実並びに弁論の全趣旨を総合して考えれば、昭和五二年六月一三日に被告に到達した内容証明郵便(甲第四号証の一)による異議の申述には遅滞がなかつたものと認められ、乙第一号証(同年二月二八日付原告の被告宛の手紙)は右認定の妨げとならない。

三 正当事由の存否

請求原因4(正当事由)につき按ずるに、証人家田静子の証言、原、被告本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の諸事実が認められる。

1 原告とその妻家田静子は二人で現住居に借家住まいをしており、その賃借期限が昭和五一年七月に到来したが、更に昭和五四年七月までに期限が延長された。その家主である訴外大田某は都内世田谷区小山台に自宅を有し、更に原告方付近にマンションを所有しているため、期限到来時に原告に対し右借家の明渡しを求め得る正当事由の存在に疑わしいものがある。原告の長男は茨城県内の航空自衛隊百里基地に勤務しているが、当面東京またはその近郊に戻つて来る予定はない。原告は高血圧脳症の後遺症により働くことができず、年間五〇万円程度の年金収入があるのみで、家計は妻静子が華道教授をして得る収入で支えている。そこで原告らは本件土地全部または一部の換金に期待をかけている。

2 他方、被告は病弱の妻、三五才の次女、三一才の三女(右両名はいずれも独身者)と共に本件建物に居住し、他に転居のあてはなく、更に昭和五四年四月以降、長女とその家族合計四人が被告方に転入して来る予定である。

右の諸事実に照らして考えれば、原告が本件土地を必要とする主たる理由は原告の生活費と療養費を捻出するため有利に本件土地の全部または一部を換金したいということにあり、自ら本件土地を利用する必然性は殆どなく、右の点はいわゆる底地権の売却ないしは本件土地の適正な管理によつて解決することが可能であり、これに対して被告の本件土地利用の必要性の程度は原告のそれを上回わるものと認められる。

請求原因4(一)(賃料の低廉性)は正当事由の存否の判断を左右するものではなく、主張自体失当であり、同4(四)のうち被告が転居を希望したとの点を認めるに足りる証拠はない。<以下、省略>

(太田幸夫)

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